愛を語るは神官の務め

※この文中には性的表現が含まれています。読む場合は了解の上でお願いいたします。




  【5】



 ちゅ、ちゅ、と微かな水音が口元から漏れる。
 触れるだけのキスは少しづつ深くなって、やがて口内でお互いの舌を求め合う。もっと触れたくなって伸ばした手が、互いに触れ合い、自然と手と手が組み合わさる。
 静かに離れた唇が僅かに笑みを乗せ、再び触れて、今度はゆっくりと顔が離される。
 目の前にあるフェゼントの顔はもう涙を流していなくて、ウィアはそれだけで嬉しくて微笑んだ。

「好きだ、フェズ」

 仄かに頬を赤らめるフェゼントに、ウィアはますます嬉しくなる。

「私も……貴方の事を、好き、だと思います」

 言って照れたように俯く姿があまりにも愛しくて、ウィアは衝動のままフェゼントに抱きついてしまった。

「あのっ……ウィア?」

 焦ったフェゼントが突然のことに固まる。
 けれども、盛り上がった雰囲気は、ウィアの呟きでおあずけを食らう事になった。

「う……感触が……」

 胸当てを外しても、まだ鎖帷子をつけているフェゼントに抱きつけば、当然ながら感触はよくない。
 その言葉にフェゼントは軽く噴き出して、優しくウィアの体を離すと、金属で編まれた鎧を脱いだ。とさりと鎧が床に落とされた途端、ウィアはすぐに再び抱きついた。

「大好きだ、フェズ」

 ウィアが言ってフェゼントの肩に顔を摺り寄せると、フェゼントは暫く無言を返した後に、そっと、手を置くような優しさでウィアを抱き返してきた。

「私もです」

 鎧を脱いだ後のフェゼントは、汗の匂いがする。
 今までは汗臭い相手なんて嫌だったのに、彼の匂いは嫌じゃなかった。
 体温も匂いも、彼を感じられるのがウィアは嬉しかった。

 ――あ、俺今すごい幸せかも。

 ウィアは昔からこの可愛い容姿で、愛想がよくて人付き合いが得意で――だから、実は女も男も経験がそれなりにある。……但し、女の場合は大抵年上の女性で、男の場合はウィアの容姿に目をつけてきた相手だから、圧倒的にウィアが抱かれる方な事が多かった。
 兄への反発があったから、冒険者になって最初の頃は、誘われたら結構簡単に付き合って寝ていたというのもある。途中からは、遊んでいる兄とは違って本当に好きな人を見つけようとそういう連中とは手を切ったが、ウィアの経験は寝るのが目的の遊びの付き合いしかなかった。
 だから、こんな風にまずお互いの気持ちを確かめ合うようなことはしたことがなくて、こうして抱き合っているだけがとてもウィアは嬉しかった。

 抱き合って、相手の体温が分かって。それだけでもとても気持ちがいい。
 それでも、ヘタに経験がある分、それだけで済まない自分に内心呆れはするのだが。

「フェズ、その……」

 言ってゆっくりと体を離せば、置いただけのようなフェゼントの腕は簡単に離れる。
 優しくこちらを見る空色の瞳に心が温かくなるけれど、ウィアはそれだけではやはり足りなかった。
 起き上がるウィアに、フェゼントは体を引いてくれる。
 少しだけ首をかしげて、それでもウィアがどうしたいのか聞こうと待っている。
 こんな風に気遣ってもらうのは初めてだから、嬉しいけれど、自分の欲望が後ろめたくて、ウィアはなかなか声を出せない。

「あのさ、俺」

 ごくりと一度息を飲んで。

「フェズが、欲しいんだ」

 フェゼントの顔が少しだけ強張ったのが分かって、ウィアは哀しくなる。
 それでも今、無理強いをする気はないから、嫌なら諦めるつもりだった。
 だけれどフェゼントは目を閉じて、まるで自分に言い聞かせるように呟いた。

「分かりました。貴方なら……」

 ウィアは顔を上げて、フェゼントの顔を見る。
 彼は不安を隠すようにウィアに微笑んで、そして唇に触れるだけのキスをした。

 ウィアは静かに、彼の鎧下に手を掛ける。
 フェゼントもウィアの僧衣に手を掛けた。
 お互いに、相手の服を出来る限り静かに、丁寧に脱がせていく。行為は初めてではないのに、フェゼントの緊張が移ったようにウィアも緊張してしまって、指が上手く動かなかった。
 やっとのことで服を脱がせ、ベッドの上、互いに上半身を晒した状態で向かいあって座る。目が合うと、フェゼントは恥ずかしそうに俯いて、その隙にウィアは彼の胸にキスをした。

「ぁっ……」

 触れただけで緊張して、びくりとひきつる肌。
 けれども顔を上げると、フェゼントはそんなウィアの額に軽くキスをしてくれた。
 ウィアはそっと手で彼の肌に触れる。胸に触れ、そこからずっとなぞるように腹やウエストを撫でていく。細身ではあるけれど、皮膚の下にはちゃんと筋肉を感じる。腹だって肉は薄いものの固い。ところどころある傷跡は綺麗な肌に勿体ないとは思うけれど、彼は戦士なのだから、それは仕方ないと思った。
 ぴくぴくと、触れるたびに震える肌は、彼が感じている証拠。
 両手で包み込むように彼の腰を撫でて、そしてそのままズボンの紐を解くと彼の欲望を両手で取り出した。

「ウィア……やめっ」

 流石にフェゼントは、ウィアの肩を押さえて離そうとしてくる。
 ウィアはそれに顔を上げて、目だけで抗議した。
 フェゼントは不安そうにウィアを見つめ、そして困ったように顔を顰める。しかしウィアは、じっと彼の顔を見て、だって俺はフェズが欲しいんだ、と呟いた。
 フェゼントが溜め息を吐く。それと同時に手から力が抜ける。
 それにウィアは笑みを浮かべると、頭をフェゼントの股間に近づけていった。

「もっと、フェズに感じて欲しい」

 言って、彼の殆どまだ勃ちあがっていない性器を口に含んだ。

「んっ……」

 肩に触れている彼の手に、くっと力が入る。
 だがそれは引き離そうとする為の力ではなく、ただ緊張しているだけのようだった。
 ウィアは柔らかい彼のものをたっぷりと唾液で濡らすと、舌で敏感な場所にそって刺激を与えていく。それだけで簡単に充血していくそれは、ゆっくりと硬さを持ち始めていく。

 彼が感じているのが分かるのが嬉しい。
 彼の欲望の印が愛しかった。

 愛しくて愛しくて、もっと感じて欲しくて、震えるそれの形を舌でなぞる。感覚が集中している先端を少し強く舌で擦れば、滲んでくるものが舌を刺激して、ウィアはそれを舐めとる事に夢中になる。
 彼にはもっと気持ちよくなって欲しい。
 すっかり硬くなった彼のものをぴちゃぴちゃと音を立てて舐め、時折全部を口の中に含んで唇で全体を絞るように刺激する。
 こぼれるものがとくとくと量を増す、押さえている彼の足の付け根辺りが、ぴくぴくと震える。

「ウィア、だめ……です」

 力ない手が、ウィアの頭を離そうと、茶色の髪の毛を掴む。
 だからウィアは逆に強く吸い上げて、先端の窪みを舌で押した。

「あ……くっ」

 掠れた声を上げて、ウィアの口の中にフェゼントが吐き出す。
 口の中一杯に広がるフェゼントの味にうっとりと目を細めて、ウィアはそれをこくりと喉を鳴らして飲み干した。
 唇についたものも舐めとって体を起こせば、泣きそうな顔のフェゼントがこちらを見ていた。

「そこまでしなくても……」
「フェズのなら全然いいんだ。美味しかったし」

 途端、フェゼントの顔が真っ赤に染まる。
 あぁ可愛いなぁ、と思うとウィアはいても立ってもいられない。すぐにでも押し倒したいと思っていたら……今度はフェゼントが顔を下ろして、ウィアの股間に頭を埋めていた。

「え? フェズ、俺はいいって……」

 焦って、ウィアがフェゼントの頭を掴む。
 だがフェゼントの方が素早い。

「お返しです」
「んっ……」

 フェゼントの反応だけで服の中できつそうに主張していたそれは、暖かい粘膜につつまれて、体がしびれる程の快感をウィアに伝える。

「フェズ、いいよっ、俺はいいからっ」
「だめです」

 口に含まれながら声を出されると、その振動でさえまずい。
 軽く舐められただけでも、思わずウィアの腰が浮いてしまう。
 どうして今、自分がこんなに感じているのかが疑問な程、ウィアは軽く舐められた程度でびくびくと体を震わせ、熱い吐息を漏らした。
 そして恥ずかしい程あっけなく、追い詰められてしまった。

「ぅぁ……んっ」

 射精感に、体中から力が抜ける。
 自分の反応が恥ずかしくて居たたまれなくて、ウィアは呆然と天井を見上げる。

 初めてではあるまいし、何故こんなに恥ずかしいのか。

 フェゼントの顔を見れなくて、黙って天井を見ていれば、ウィアの肩に力が掛かる。それから、ふぅっと空気の流れを感じて、重力を感じて。
 ぼさ、と背中がベッドに受け止められて、正面にはフェゼントの顔があった。

 ――あれ?

 頬をほんのり赤くしたフェゼントが、目を見開いているウィアの顔、頬や耳にキスをしてくる。情欲を抑えて訴えるような瞳を向けてくるフェゼントの顔は艶があって、ウィアは見とれた。
 だが、見とれている場合じゃない事に、ウィアはやっと気がついた。

 ――あれ? 俺が下?

 事態が飲み込めないウィアがぼーっと目を見開いている間に、開かされた足の間に、フェゼントが体を入れてくる。それから慎重に足を掴まれて、更に広げられて、後ろの蕾に濡れた指先を感じた。

 ――そうだよな、俺がそっち側だよなぁ。

 そもそも、フェゼントがウィアを襲うところだった……というのが事の発端ということなら、そのままセックスとなればウィアが下になるのは流れ的に当然だ。今更ながらにそれに思い着いたウィアは、自分のお気楽思考に我ながら呆れた。
 ずっとフェゼントを欲しいと思っていたから、ウィアはすっかり自分の方が彼を抱くつもりだった。けれど、相手がフェゼントだと思えば、あれだけ拘っていた、自分が押し倒すんだ、という考えはどうでもよくなってくる。

 ――まぁ、いいや。

 体の中に入ってくる指先は、性急なことはせずゆっくりとウィアの様子を伺うような優しさで、それだけで、これが今まで抱かれていたどんな時とも違う事なのだとウィアに教えてくれる。
 ふと視線を下ろしてフェゼントを見れば、彼の顔は心配そうで、それでウィアはなんだかどうでもよくなってしまった。
 これから自分はフェゼントにヤられるんじゃなくて、彼に愛されるのだ。
 そんな風に考えた自分に、ウィアは突然無性に恥ずかしくなって顔を赤くする。そして、そんな時にフェゼントの指がウィアの奥を探ってくる。

「あ……」

 びくりと体を跳ね上げて、ウィアはシーツを握り締める。
 一瞬手を止めて顔を上げたフェゼントに、ウィアは赤い顔のまま笑いかけた。

「大、丈夫だから……続けて……フェズ」

 出来るだけ体の力を抜いて、彼を安心させてやらないと。
 そう思っても、ウィアも抱かれるのは久しぶりすぎて、そうそう簡単にいかない。
 それでもどうにかほぐれてきたのを自覚して、ウィアはそれで諦める事にした。

「フェズ……もういいから」

 丁寧に慣らそうと動くフェゼントの指は、ウィアを傷つけないようにあまりにも優しくて、このままやっていても終わらないと思ったのもある。フェゼントの少し荒い息遣いも分かっていたし、ウィア自身も早く彼が欲しいと思ったのだ。

「いいから、挿れてくれ、フェズ」

 それでもフェゼントは不安そうな顔をする。
 これではどっちが下やるのか分からない、と思ったウィアは思わず笑ってしまった。
 覚悟を決めて髪を縛っていた紐をとき、枕の上に完全に頭を預ける。

「いいんだよ、俺が早く欲しいんだから」

 フェゼントが上から伺うようにウィアを見つめ、そしてキスをくれる。
 それから、ウィアの足を抱え、体を倒してきた。

 ずる、と少しずつ広げられる感触は、経験があってもやはり慣れなくて、顔にもそれが出てしまう。それに戸惑うフェゼントの気配が分かって、ウィアは彼に腕を伸ばした。ゆるく、肩にすがるように抱きつけば、フェゼントの喉がごくりとなって、少しだけ強く押し上げられる。

「んっ……」

 その衝撃に声はあがったけれど、ウィアはぎゅっと腕に力を入れて彼を引き寄せようとする。
 ゆっくりとしたストロークで体を押しながら、フェゼントが中を進んでくる。
 正直、こんな恐る恐るされるより一息にきて欲しい、とウィアは思ったが、フェゼントが自分を気遣ってのことだと思うと、心は満たされるから不思議だった。

「ふ……ぁん」

 ぐ、とフェゼントが腰を進めて、奥を抉られたウィアは高い声を漏らした。
 フェゼントの方もそれなりに衝撃だったようで、息を飲んだ後、辛そうに息を吐く気配がしたから、ウィアはぎゅっとフェゼントに抱きついた。

「動いて、フェズ」

 耳に囁けば、ウィアの中でフェゼントの一部がとくりと反応するのがわかる。
 フェゼントはウィアに口付けて、そして腰を動かす。

「あ、ぁ、はぁ……」

 ず、ず、と中を抉られて、擦られて、疼くような熱が生まれる。
 中を埋められた苦しさはあるものの、高まってくる熱の方が強くて、ウィアはその感覚に身を委ねる。目を閉じて、中を動くフェゼントを感じて、まだ燻るように弱い快感をもっと感じたくて、自らも腰をフェゼントに擦り付けた。

「ウィア……」

 快感に濡れたフェゼントの顔さえも、ウィアにとっては快感の元になる。
 キスを強請ればすぐに与えられて、互いに揺れながら舌を求め合う。
 くちゅくちゅという水音を口から聞いて、繋がる部分からも聞こえて、切ない感覚が体を満たしていく。
 フェゼントの動きは最後まで気遣うようにゆるく、優しく。ウィアにとってはもどかしいくらいであったけれど、でも逆にそんなゆっくりとした快感が気持ちよかった。

「はぁっ」

 切ない声と共に中に吐き出された熱を感じて、ウィアもびくびくと体を震わせる。
 再び唇を求め合って、ぎゅっとフェゼントの体を抱きしめて、中で震える彼を感じて、ウィアも堪えきれずに達した。

 暫くは、互いに乱れた息を感じる事しか出来なくて、力の抜けた体で、引いていく熱をただ感じていた。
 けれど、ふと気付いたフェゼントが急いで起き上がろうとする。

「あ、すいません。重いですよね」

 そのフェゼントをウィアは逆に抱き寄せた。

「いいんだ、フェズ。もうちょっとこうしててくれ」
「ウィア?」

 ぴったりと重なる肌と肌、全身で感じる彼の体温が心地良かった。
 とても、幸せだった。

「こうしてるのがすっげー気持ちいいんだ。フェズは違う?」

 聞けばフェゼントはくすりと笑みを浮かべて目を閉じた。

「私もです」





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