WEB拍手お礼シリーズ36 <フユの日常編> ※傭兵団はアッシセグ、シーグルは騎士団でお仕事、な時期のお話です。 ☆☆フユのとある一日(1/3)※ランダム表示 「ほーらおっきろー、フユー」 と、部屋の扉を蹴破る勢いで開けたレイだったが、ベッドは言葉通りもぬけのカラだった。 「んー、やっぱ今日は朝から仕事かぁ。あいつもご苦労なこった」 まぁ、夜手を出して来なかった日は、次の日が早い、というのは、いくら馬鹿なレイでも学習済みだった。それでも毎日起こしにくるのは、いつかはフユの寝顔を見てやろう、というささやかな野望故である。 ともかくも、今日も失敗か、とレイは、どこから持ってきたのかわからないようなピンクのフリフリのエプロンをつけたまま部屋をアトにした。 * * * * 「今日も無事、隊長さんはご出勤、っと」 シーグルが騎士団に入るのを見届けたフユは、くるりと踵を返して朝の混雑でにぎわう、大通りの人ごみの中へと消えていく。 フユは現在、前のように、ずっとシーグルについて回っているという訳ではない。騎士団内の状況を確認する為、最初の数日はこっそり潜入して調べ回ってはいたが、今は彼が仕事中の時について回る事はない。ついでに、シルバスピナの屋敷にいる間も、基本的についていなくていい事にはなっている。勿論、何か気になる事があった場合は、前のようにずっとついていたりもするが。 フユは大通りを南へと下り、中央広場から西へ伸びる通りに向かう。 現在、フユの立場は、シーグルの報告係は続行中だが、首都に一人(?)残った団員として、首都内で繋がりのある連中からの情報のまとめ役でもあった。その為、シーグルにずっと付かなくてもよくても、仕事は山盛り状態だと言えた。 「ハァイ、今日は多少は面白いネタがあるのよ〜」 西地区の裏通りの所定の店で、待ち合わせた相手を見た途端、フユは笑顔をひきつらせた。 一応美人の範疇に入る露出の多い甲冑を着た女は、どうみても酔っぱらっている。 「ねーさんとこは、昨日はまた一晩中宴会だったんですかね」 「ちがーうわよぉ、これは気分がいいから朝から飲んだだけv」 「えーと、一応ねーさんは酔っぱらってこんなとこ一人でいていい立場じゃないでしょう……」 「なーによぉ、あんたんとこのボスだって、一人でうろうろしてたじゃない」 「いやぁ、あの人は規格外っスから」 朝からこんなところでぐだぐだしているこの女が、首都でもそこそこの大手になる傭兵団の長にはまず見えない。 「そーよぉー、あの男はほんっとに何でも規格外でさー、おかげで他の男見ても全然トキメかなくなっちゃったんだからー。まったくムカツク男よねー」 おまけにフユの主であるセイネリアに惚れているものだから、本気で扱いに困る。ちなみに彼女の傭兵団である『紅の盾傭兵団』は、元は違う名前だったのを、こちらに合わせて改名したという事情があったりもする。勿論セイネリアは彼女の告白をあっさり蹴ってはいるものの、実は何度か寝た事はあるという間柄で、彼女もちゃんと諦めてはいるくせに、こうして会うたびに酔っぱらってフユにつっかかってくるのだ。 「ねぇ、あいついつまで田舎に引き篭ってる気よー。シルバスピナの坊やに振られて引き篭ったってのが本当なら、アタシが慰めてあげるって、ちゃんと伝えてくれたんでしょうねー」 「はいはいはい、伝えましたッスよ、えぇもう、ちゃぁんと伝えました」 「ならなんで何も返事がないのよー」 フユはいい加減埒が明かないと、彼女の肩をがっしりと掴み、薄い灰色の目を開いて彼女を睨む。 「ですからっ、ボスから返事欲しいなら、いいネタ下さいっていいましたよね。早く、仕事の話をしてください」 ☆☆フユのとある一日(2/3)※ランダム表示 傭兵団で一人(?)首都に残ったフユは、シーグルの報告役の他に、首都にいる情報提供者のまとめ役になっていた。 そんな訳でフユは、普段はシーグルが騎士団と家を行き来するその時だけを確認して、大抵の彼の時間はその情報提供者というか、協力者と連絡を取る事に費やされていた。 「久しぶりじゃない、坊や」 ストールを頭から被った女は、フユにそういって茶を勧めてくれる。今日の二人目もまた女で、フユは慣れてはいても嫌になる。というか、セイネリアは元々首都では娼婦関係の情報屋に顔が広い為、必然的に協力者は女が多い。 首都に出てきた当初に、娼婦間の大きい情報屋グループの元締めに気に入られたからという事だが、相当そっち方面で遊び歩いていた事は確実だろう。全く驚く事ではないが。 「なンか面白い話がありそうだって事で来たんスけどね」 「えぇそう、ヴィド卿の元部下だったって男からのタレコミがね」 「へぇ……そりゃ興味ありまスねぇ」 フユがにやりと笑えば、娼婦はころころと笑う。こちらを坊やというだけあって、おそらく10近くは年上な女は、いいネタがあってもそうそう簡単に話してくれない。 「じゃ、お話ついでにちょっと遊んでいきなさいな。坊やには寝物語で聞かせてあげる」 「いえいえ、これでもお仕事中っスから」 つつつ、と指でフユの腕をなぞる彼女から、フユは一歩下がりながら大仰なお辞儀をしてみせる。女もまた、そんなフユに、演技めいた所作で腕を組んで、怒るというかすねたふりをしてみせた。いわゆるこれもかけひきだ。 「坊やンとこのボスは、こういうとこで遊ぶのも仕事だったじゃない」 「俺みたいな若造にゃ、ねーさんを買えるような手持ちもありませんし」 「あらぁ、そんなのあの男のツケにしときゃいいわよ」 「じゃぁ、遊ぶ事自体もボスにつけておいてくれまスか」 「言うわねぇ。……ま、いいわ、どんなカタチでも、あの男に貸し作っとくのは有用だから」 どうにかここも、これで無事お仕事クリアっスかね……などと考えつつ、フユはちょっと疲れて来た。 その後も、今日の予定をこなしたフユは、結局後3人と会い、その内2人がやはり女性で、いろいろいろいろ……面倒くさい状況になった。 「えぇ、与えられた仕事に文句を言う気はないっスけどね、なんかボスのオンナの面倒見てる気になるのは錯覚じゃないっスよね」 常時作った笑みを顔に浮かべているフユでさえ、こちらの仕事が終れば疲れが出る。騎士団からいつもと変わりない様子で出てくるシーグルを眺めて、慣れたその仕事にほっとするくらいには、このまとめ役の仕事は、優秀なフユにとってさえしんどかった。 だから、無事シーグルを見送り、屋敷周囲を軽く見回ってから現在のねぐらへと帰ろうと道を急いでいる筈のフユは、それでも軽く回り道をして、とある店の中へ入ったのだった。 ☆☆フユのとある一日(3/3)※ランダム表示 本日の仕事が終了し、フユは現在の首都のねぐらである、(同居人付きの)とある部屋へと帰ってきた。 「たっだいまー、帰りましたよー」 と、馬鹿みたいに明るい声を響かせれば、奥から『おー、おかえりー』とやはり明るい声が返ってくる。浮かれるような足取りでフユが水場へいけば、ピンクのフリフリエプロンを身につけた、顔だけはそれなりにいい青年が、片手に刃物を大仰に構えて、もう片手に持つ魚を睨みつけていた。 「レーイ、お土産っスよー」 とフユが言った途端、構えた体勢のまま、レイは顔をひきつらせる。彼が魚から目を離し同居人をちらと横目でみれば、フユが差し出して見せていたのは、やっぱりフリフリレースにリボン付きのスカートだった。 ちなみに、今彼が着けているエプロンは勿論、ベッドにあるフリフリスケスケの女物の寝間着や、ピンク色のカーテン、ピンク色に光る固定ランプ台等々……皆、フユのお土産であった。 「フユ、俺は男だぞ、さすがにそれはないだろっ」 「だーいじょうぶですってぇー、レイなら似合うっスよー」 「いやいやいや、俺程の美形ならそんなものでも似合ってしまうかもしれなくても、男としてのタブーというのはどうにもならないものだぞフユ」 「いあー、レイの場合は(おバカ)キャラ補正でOKっス!」 「キャラ補正って何がOKなんだっ」 「ほーら、これはなんと、着たままHができちゃうって優れものっスよ!」 「おーまーえーはー、そいつはそれ用だったのかっ」 「当然じゃないっスか。え? レイはまさかこれ着て外出るつもりだったっスか。いやぁ、まさかそこまでヘンタイとは……」 「どっちがヘンタイだーーー」 と、いうやりとりは、帰って来た日にほぼ100%発生する定例イベントである。レイは嫌だといいつつも、乗せて騙して結局は言うとおりにしてしまう為、フユはすがすがしく(?)それで一日を終了させる事ができるのであった。 団が首都から去るとセイネリアが言った時。 フユが一人で首都に残ると言うと、どうせだからメシ係に置いておけと、フユの団公認の恋人(?)であるレイも連れて行けと主に言われた。その時は、あの男も他人にそんな気を使うなんてと、フユはしみじみセイネリアという人間の変化を実感したものだったが、最近では、こっちに残る分のフユの仕事のストレスぶつけ役が一番レイの有用な使い方だ、という単純なあの男の計算だっただけという気がして仕方ない。いや、おそらくそうなのだろう。 今のところ、押しつけられた仕事には恨み言の一つ二つ言いたいものの、彼のその判断には感謝してる分、納得するしかない。 とはいえ、このところの『お土産』をセイネリア名義の団のツケで買っているのは、フユのささやかな仕返しだったりするのだが。 ☆☆☆☆ 後日談 ☆☆☆☆☆ ある日、カリンが少し言いにくそうに言ってきた。 「ボス、あの……ボス名義でこういうものが届いているのですが」 セイネリアに差し出されたのは、数枚の請求書。いかにもいかがわしい店名からばかりのそれらには、いかにもいかがわしかったりファンシーな名前の商品名が並んでいる。 「なるほど」 どれもが首都の店な段階で、誰が買ってどう使ってどんな意図で名義をセイネリアにしているのか、そこまで正しく理解して、セイネリアは笑いだした。 「あの、これは払っていいものなのかとエルが」 「あぁ、払っておけ、必要経費だ」 「あ、はい……」 カリンはセイネリアの言葉に逆らうことはない、が、それでも表情の困惑は隠せない。 セイネリアは喉を震わせて笑った後、カリンが部屋を出ていってから呟いた。 「楽しくやってるようじゃないか。羨ましいくらいにはな」 そして言ってから、ふと気がついて笑みをやめた。 「折角、こちら名義にしてくれたんだ、何ならシーグル宛に、おもしろそうなのをいくつか送らせるのも手か」 その瞬間、首都にいるシーグルは、何故か背筋にぞくりと悪寒が走ったとか……。 --------------------------------------------- レイとフユの話がお好きな方向けに。これもまだあげてなかったなーと。 |