WEB拍手お礼シリーズ7
<その頃傭兵団では……編>








【「彷徨う剣の行方」の頃、傭兵団では……1】

 朝の食堂。鼻歌さえ出そうな勢いで、足取り軽く入ってきた灰色の髪の男は、一番忙しい時間を終えてほっとしている料理長の男に声を掛けた。

「おっはよーございますー」
「お、フユ、今日は帰ってたのか?」
「えぇまぁ久しぶりにですね、別のお仕事が入ったもんスからー、ところで、こっちにいますかね?」
「あぁ、いるいる。おーい、レイ、恋人がお迎えにきたぞー」
「いやだなぁ、恋人だなんて(*ノノ」
「だーーーれが恋人だ!!!」
「おっはよー、やっぱレイはエプロンが似合うなぁ」
「ふん、美形は何着ても似合うんだ……じゃなくて!!」
「ここはやっぱり、久しぶりに帰ってきた恋人へのサービスとして、今夜は裸エプロンしてもらうしかないっスかね」
「いや、いくら美形の俺様でも似合わないと思うぞ」
「そうですかねぇ、前だけ隠して後ろ隠さずなあたり、レイにぴったりだと思うんスけどねぇ」
「フユ、それは違うな。俺は敵に後ろを見せないから後ろを守る必要がないんだ!」
「そうっスねぇ、後ろを見せる前に倒されますからねぇ、もしくは敵の前にいくより先に逃げますからねぇ」
「フフフ、敵わない相手は最初から相手にしない、これは生き抜く為の基本だ!」
「なるほど、それでレイは仕事で一度もマトモに戦ってきた事がないわけっスね」
「俺の敵になった奴らは皆運が良かったのさ」
「そっスね、お仕事されなくて運が良かったですねぇ、確かに」
「あー、久しぶりに恋人が帰ってきたんだ、今朝は片づけはいいからあがっていいぞ。ついでに今日は休暇をやる、昼夜とこなくていいぞ」
「だから恋人じゃないぞ!!料理長までそんな事いうから、俺にひっそり片思いしてる女性陣の方々が声を掛けてこないんじゃないか!」
「いやー、妄想もそこまでいくと立派だわ。じゃぁな、フユ、さっさとこいつ引き取っていってくれ」
「了解っス、さーレイ、別にサービスは今夜と言わず朝からでもいいっスよー」
「待て、この後に俺特製のスペシャルデザートタイムが……」

 去っていった二人を見て、食堂に残っていた団員達がひきつった顔をして話を始める。

「相変わらずつっこんでたらキリがない会話ですね」
「しかしフユ……男に裸エプロンはないだろ」
「まぁ、フユの奴はレイで遊んでるだけだから、きっと本気で見たい訳じゃないんだろ……多分。でもアイツ趣味悪いからなぁ」
「レイも顔だけならいいんだがあの性格だしなぁ」

※日記とかでちらっとだけ言っていたフユの相方がレイです。えぇ、美形ではあるものの馬鹿で自信家で傭兵団一の無能という面白人物だったりします。





【「彷徨う剣の行方」の頃、傭兵団では……2】

 傭兵団、副長であるエルの執務室、座り込んで書類に目を通しているエルに、やってきた団員達は一斉に声を掛けてくる。

「エル、今月の会計報告、こっちおいとくな」
「エール、今夜の打ち合わせしようとしたらマスターがいねーんだけど」
「エル、デコットの奴が、仕事いきたくねーって部屋から出てこねぇ」
「エルさん、一昨日の報告書ここおいときますね」
「エル、ちょっと次の仕事なんだけど……」

「あー、お前ら、しばらくそういう雑用は、俺じゃなくナスリーのほうに回せ、俺はちっと忙しいからな」
「あれ、エル、あんた仕事入ってたっけ?」
「まぁな、こっちは大きい仕事はいってんだ、すまねぇけどな」

 部屋を出て、廊下を歩く一行は、言われた通りナスリーのところへと向かいながら、口々に噂話を始めた。

「そういやこんとこエルが全然指示だしにこないと思ったらなぁ、仕事入ってたのか」
「どうもな、最近裏の連中の方がやたら忙しくて人手不足みたいだし、マスターもこんとこずっと西館いってるし、あっちの仕事で大きいのが入ったのかもな」
「そういうのは普段エルが組み込まれる事はねーだろ。マスターやカリンさんが忙しそうにしてる時でも、よくのんびり俺達の訓練に付き合ってるじゃん」
「まぁなんか、よくわかんねーけど、エルも最近マスターにくっついてちょくちょく西館いってるってよ」
「そういやちょっと様子がおかしい気もしたな」
「あー、確かに、いつもならあーやって一気に皆で話しかけるとまず怒鳴って怒ってたからな」
「最近裏の連中とばっか話してて、少し人間が出来たとか」
「まぁあっちの連中は……一癖二癖どこじゃないんだろうなぁ」
「そういや最近フユが帰ってきてるって話だけど」
「人手不足で呼び戻されたっぽいな、なんか裏の連中相当大きい事やってんのかね」
「でもフユが帰ってきてるってことは、マスターのお遊びはやっと終わったのか?」
「いんや、例の坊やには別のやつがついたんじゃね?」
「しっかし、今回の奴は本当に長いよな……やっぱ今度こそマスターの方が本気なのかね?」
「本気って男相手にか? ……まさかぁ、あの人が本気で誰かにうつつを抜かすのなんか想像もできねーよ」
「だよなぁ」
「でも……今までと違うってことは確かだよな」

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆




【「彷徨う剣の行方」の頃、傭兵団では……3】

 西館の庭の一角、少し広い部屋程度の開けた場所で、一人の少女が一心不乱に短剣を振り、それを妖艶とも言える長い黒髪の女が眺めていた。

「今日はこのくらいで、もういいわソフィア」
「はいっ」
「基礎訓練は続けてるようね、体力が大分ついてきてる」
「はいっ」
「クーア術の方はどうなってる?」
「はい、そちらは、テティス様に……」
「なら状況はテティスに聞いておくわ、神官資格の方については来年くらいになりそうだから、そっちはそこまで焦らなくていい。ただ、言っておいた基礎訓練は決して休まず続ける事、今の貴方は、まずは体を作る事が一番重要だから」
「はい」
「……シーグル様につく役を貰うには、相当腕がないとね」
「はい、わかっています」
「貴方には期待しているのよ、本当に。今だって貴方が既に使えていたらすぐに使いたいくらい」
「すいません……」
「謝る必要はないわ。貴方は十分がんばっているし、筋もいい。ただ現状がちょっと人手不足で困ってるだけ」
「そう、なんですか?」
「そう、ちょっとね、もしかしたら貴方にも仕事を手伝ってもらうかもしれない。大丈夫、仕事といってもただの転送役だろうから。でも本音をいうとね、貴方がシーグル様につく専属になってくれればかなり楽になるの。だから期待してるわ、がんばってね」
「はいっ……では、あの……」
「どうしたの?」
「では、今、シーグル様には誰か、ついてるのでしょうか?」
「それはね、流石にだれもついてないなんて事はないわ。ただちょっと……出来れば今回の仕事が片づくまでは、あの坊やもあまり手間の掛かる事に巻き込まれないでくれるといいんだけど……そうも言ってられなそうで」
「あのっ、もし必要でしたら、私いつでも仕事しますからっ。いざとなったら、無理矢理あの人を連れて逃げるくらいは出来ますっ」
「そうね、それが出来るから、貴方には早く使えるレベルにまでなって欲しいの。でも焦らないで、貴方の歳では無理をしすぎて体を壊す事も怖いから。貴方は確実に願いをかなえなくてはならない、貴方の為にも、シーグル様の為にも、そしボスの為にも、ね……」
 意味深にそういったカリンは、少女の頭を撫ぜて溜め息を漏らす。
 ソフィアは、その彼女の様子を心配そうに眺めながら、自分の無力さを悔やむように唇を引き結んだ。

「はい……分かり、ました」

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆




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「彷徨う剣の行方」の話の内容とあわせると傭兵団の様子の理由が分かる……かも。


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