ここから先は:「樽の中」さんの物語です
脱衣所に飛び込んだ。
予想通り、そこには赤毛のロングコートが
だらしなくまるめてあった。
勢いのまま風呂場の戸を開けようとしたぼくは、
なぜかきぐるみの皮にダイブしていた。
そして、思考を超える速さでかぶり、
もがき、気がつくと、きぐるみを完全に装着してその場に立っていた。
息をきらしていると、風呂場の戸が開く音がした。
完全に振り返っても、狭いのぞき穴からは明暗程度しかわからない。
「よ、今日からあんたがムックだよ」
お気楽そのものの声がする。
「そんで俺が今日からあんただ。ってたってみえねえか」
含み笑いとともにきぐるみの目のぶぶんに指が突き立てられ、
視野がひらける。
なぜだか呆然としてしまって指一本動かせない。
叫ぼうという気さえ起こらない。
そこには確かにぼくがいた。
湯上りの頬をして、黄色と黒のしましまたおるを首にかけ、
これまで鏡のなかに映ったこともないような、明るい笑みを浮かべて。
- 浮かべて。
(この分岐より先「もんもん」さんの物語です。)
- 僕は家を飛び出した
(この分岐より先「あき」さんの物語です。)
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