ここから先は:「特効薬助六」さんの物語です

「ずるいなー、美奈ちゃん。こんな素敵な彼がいたなんて」

応接室のソファーに座るなり、雨宮は僕の容姿をジロジロ見ながら、
呆れ顔で僕の隣に座っている美奈子に話しかけた。

美奈子は雨宮の言葉を聞くなり愛想笑みを浮かべながら、
雨宮から僕に視線を向けた。

「本当に素敵なのかしら」

虫唾が走るような美奈子の相槌は、
まるでここが彼女の夜の仕事場のような雰囲気を漂わせた。

美奈子をいやらしそうな目で眺めていた雨宮は、
その視線を僕に向きなおし、その脂ぎった鼻を手で掻くような
素振りをしながら、表情からスキを消していくと、僕に話しかけた。

「スズキくんだっけ」
「先生、鈴屋ですよ。ス、ズ、ヤ、ヒ、ロ、ア、キッ!」

雨宮の間違えに、美奈子がまた商売気たっぷりな調子で、それを指摘した。
「あ、そうかそうか、失敬失敬。鈴屋くんか」

雨宮雅夫・・・
・・・テレビよりいい男だって、冗談だろう、
どこにでもいるスケベエ親父じゃないか。
作り笑いをしながら、僕はそう心でつぶやいた。

美奈子からもらった名刺で、気が進まなかったものの、
しぶしぶ雨宮の事務所に電話をして、美奈子の名前を出すと、
すんなりと会うことを承諾してくれた。

そして、一週間後の今日、雨宮の事務所に美奈子と同伴でやってきたのだ。
僕も美奈子も服らしい服も持っていなかったものの、
何とか正装というものになったが、美奈子のそれは明らかに
夜の商売の衣装そのままだった。


  1. そのままだった。
    (この分岐より先「ねむねむ」さんの物語です。)


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